ブックレット・ロゴス

村岡 到 編 大内秀明 久保 隆 千石好郎 武田信照 村岡 到
『マルクスの業績と限界──マルクス生誕200年』
ブックレット・ロゴスNo.13

マルクスの業績と限界──マルクス生誕200年
2018年4月15日刊行
四六判 123頁 1000円+税
ISBN978-4-904350-47-8 C0031

まえがき

晩期マルクスとコミュニタリアニズム(共同体社会主義)
    ──マルクスとE・B・バックスとの接点   大内秀明

 第1節 初期マルクス・エンゲルスの唯物史観
 第2節 『経済学批判』から『資本論』へ
 第3節 晩期マルクスと『資本論』
 まとめ

国家や権力の無化は可能か──マルクスの〈初期〉へ    久保 隆
 第1節 国家という幻想
 第2節 幻想の共同性
 第3節 幻想の権力へ

マルクス自由論の陥穽
    ──アンドレ・ヴァリツキの所説を参照して   千石好郎

 はじめに
 第1節 マルクス自由論の基本的骨格
  A マルクス自由論の基本的骨格
  B 哲学的自由概念
  C マルクスにおける「歴史の意味」と「真の自由の実現」
  D 古典的自由主義に対するマルクスの態度
 第2節 マルクス自由論が孕む諸問題(ヴァリツキによる解析と批判)
  A マルクスにとっての自由(free)の意味
  B 「類的存在」の自由の重視
  C マルクスの自由観:個人の自由への法的保護への軽視
  D 現在の世代が、将来の世代のために犠牲となるのを許容する
  E マルクス自由論は、全体主義的共産主義に帰結する
 おわりに

マルクス・エコロジー・停止状態           武田信照
 第1節 マルクスの物質代謝論
 第2節 エコロジーの思想家・マルクス?
 第3節 ミル停止状態論──マルクスとの対照
 おわりに

マルクスの歴史的意義と根本的限界          村岡 到
 第1節 マルクスの継承すべき業績
 第2節 マルクスの貴重なヒント
 第3節 マルクスの根本的限界と錯誤
 第4節 『資本論』「第二四章 第七節」の誤り

あとがき

  まえがき

 今年はマルクス生誕二〇〇年。さまざまな企画が立てられるであろう。ヘーゲルは一九七〇年に話題となったが、同時代人で生誕二〇〇年が記念される人は何人いるであろうか。日本では安藤昌益が一七〇三年に生まれ、『社会主義真髄』を著した幸徳秋水が一八七一年に誕生しているが、比肩できる思想家は他にはいないだろう。明治維新が今年一五〇年となる。
 このブックレットは、私の周りの方にお願いして執筆していただいた。マルクス生誕二〇〇年を記念して、四〇〇字三八枚の原稿を、とお願いしただけで、論点などについては注文しなかった。
 私は、ものを書くようになってから、私のいわばただ一人の直接に謦咳に触れて学んだ梅本克己さんの次の言葉を強く胸に刻んでいる。
 「否定面の理解をともなわぬ肯定は弱いものであるように、肯定面の理解をともなわぬ否定は弱い」。「抽象が威力あるものとなるのは、それが捨てられた大事なものの重さに支えられたときである」(『マルクス主義における思想と科学』三一書房、一九六四年、一三〇頁、三四七頁)。
 誤りだらけの人物であれば、そんなものを取り上げる積極的な意味はほとんどないであろう。
 マルクスについては今日なお、賛否の評価が大きく割れている。膨大な著作を著していて、論点も領域も多岐にわたるから当然でもある。
 執筆していただいた方がたは経歴も問題意識も専門領域も異なり、編者の私の立場や志向性とは重なるところもあるし、相違も存在する。それゆえに多くの論点が取り上げられ、それぞれ興味ふかいものになっている。二年半前に『貧者の一答──どうしたら政治は良くなるか』(ロゴス)を出した時に、その「まえがき」でタイトルに使った「一答」の意味について、「『これが正解なのだ』と強調する愚を避けることを意味する」と説明した。本書の読者もそのような 「一答」として受け止めていただきたいと思う。
 現在、日本では少子高齢化と人口減少、廃屋の急増、過疎地の増大、農地の荒廃、DVや貧困家庭の増大(一五%に)、原発の稼働と廃炉、軍事費の増大などさまざまな領域でかつてない深刻な事態に直面している。労働現場では非正規労働者が就労者の四〇%を超え、AIやロボット化によって労働のあり方が大きく変容しつつある。政治の領域でも、森友学園公文書改ざんに露なように劣化が激しく、民主政の危機とすら言える。それらの激変によって惹起されている新しい難問についてどのように対応し解決を図るのかが問われている。本書はこれらの問題とどこかで接点を保っているであろう。
 ごく簡単に、私との出会い・関係について紹介する(収録順)。
・大内秀明さん:二〇一三年一月にNPO法人日本針路研究所の講演会にお招きして講演していただき、今年二月にインタビューを『フラタニティ』第九号に掲載した。
・久保隆さん:昨年、私が編集した『ロシア革命の再審と社会主義』の書評を「図書新聞」(一一月二五日)に書いていただき、それが縁となって、昨年一一月にアナキスト系のロシア革命一〇〇周年集会での報告者に招かれ、久保さんも報告者で、交流することになった。
・千石好郎さん:九〇年代にフォーラム90sで知り合い、二〇〇八年に「村岡社会変革論の到達点」を書いていただいき、二〇〇九年に『マルクス主義の解縛』をロゴスから刊行した。前稿はこの著作に収録されている。
・武田信照さん:社会主義理論学会で出会い、二〇一三年に『近代経済思想再考──経済学史点描』をロゴスから刊行し、翌年に拙著『貧者の一答』の書評を書いていただいた。昨年には『ミル・マルクス・現代』をロゴスから刊行した。この書評はこの著作に収録されている。
 この小さな本が、マルクス生誕二〇〇年を取り上げる企画のなかで、日本社会を前向きに変革しようとする人たちにとって、その努力を支え、再考・深化を促すきっかけになることを祈念する。
 二〇一八年四月六日 七五歳の日に                     村岡 到