ブックレット・ロゴス

ブックレット・ロゴスNo.3 『小選挙区制NO!──二大政党制神話の罠』
小選挙区制廃止をめざす連絡会 編

『小選挙区制NO! 二大政党制神話の罠』
2008年4月刊行
四六判 110頁 1000円+税
ISBN978-4-904350-16-4 C0030

目 次
はじめに                    村岡 到
日本の政治を悪くした小選挙区制  阪上順夫
 「ねじれ国会」で国民の民意はどうして「小選挙区制」になったか
 小選挙区制は政治の劇薬 日本は二大政党制でよいのか
 小選挙区制による国民の意思との乖離
 日本に真の民主主義を実現するために
各国の選挙制度
 アメリカ合州国/イギリス イタリア共和国/オーストラリア
 スウェーデン王国/大韓民国 ドイツ連邦共和国/フランス共和国
 選挙制度は多種多様              石井孝夫
小選挙区制反対の動向 小選挙区制に関わる主要政治家などの発言
 2007年
 太田昭宏公明党代表 国正武重氏 中曽根康弘元首相 志位和夫共産党委員長 加藤紘一元自民党幹事長 ジェラルド・カーティス コロンビア大学教授 太田昭宏公明党代表と加藤紘一元自民党幹事長 阪上順夫三重中京大学客員教授  論文 金光奎「小選挙区制に込められた自民党の執念」
 2008年
 与謝野馨代議士と田原総一朗氏の対談 自民党のベテラン議員たち 自民党の党改革実行本部  野中広務元自民党幹事長 与謝野馨前官房長官
 船橋市議会で小選挙区制廃止の意見書を提案   朝倉幹晴
 上田哲の小選挙区制違憲裁判闘争        紅林 進
あるべき選挙制度と政治参加の拡充
 理想選挙制度の試案             原田伊三郎
 ドイツ型の小選挙区比例代表「併用」制の検討を 平岡 厚
 地方自治体の二元代表制度を廃止せよ      田口房雄
 中選挙区比例代表併用制を           太田光征
 政治参加の水路の拡充を            村岡 到
 あとがき                   林 克明
 資 料
  小選挙区制廃止をめざす連絡会のアピール 2008・4・20
  総選挙にむけてのアピール 2007・11・23

 はじめに

 1996年10月に小選挙区制によって衆議院の総選挙が実施されてから12年が経過し、この間に4回の総選挙が実施され、この制度が弊害が大きく不都合であったことがようやくはっきりしつつある。日本の国政選挙は長い間、中選挙区制を基本としていたが、この選挙制度の下では自民党の長期低落傾向が歯止めなくつづく歴史的趨勢を背景に、1994年に細川護煕政権の時に、「政治改革」の美名のもとに「小選挙区比例代表並立制」とする公選法改定が欺瞞的な手法で強行され(同時に1年に300億円も支出する政党助成金制度も導入された)、2年後に実施された。「二大政党制」とか「政権交代」が期待をもって語られ、日本の政治はこの制度によって金権体質などが改善されると宣伝されたのだが、12年後の現実は──選挙制度だけによって現実の動向・変化が作り出されるわけではないとはいえ──政治不信と政治家の低劣化が深まっただけとすら言える。
 普通には「主権在民」と謳われているが、現在の日本では多くの人は政治に参加していると実感することはほとんどないのではないであろうか。政治を動かすのは政治家や大資本家や著名な識者などだと観念され、「観客民主主義」などという言葉も発せられることがある。政治争点にからんで大きな集会やデモに参加してそれがテレビで報道されたり、現実の政治を少しでも動かしたと思うことができれば、自分も政治を動かす主人公だと意識できるだろうが、そういう機会は滅多にない。あるいは国会議員や地方自治体議員の選挙が近づくと、投票の案内が郵送され、投票権があることに気づいたり、実際に投票所に足を運んだ時には、政治に参加したと実感することもあるだろう。しかし、自分が投票した候補者が落選すれば、疲労感が残ることにもなる。
 この小冊子のテーマである「小選挙区制」は、この徒労感をもっとも広範に生み出す選挙制度なのである。死票がきわめて多いからである。
 私たちは、今年4月、「小選挙区制の廃止をめざす集会」を開いた(協賛団体は、政治の変革をめざす市民連帯、全野党と市民の共闘会議、平和への結集をめざす市民の風)。参加者はわずか45人で粒ほどにすぎないが、そこで「小選挙区制廃止をめざす連絡会」のアピール(巻末に収録)を採択した。その活動の手始めとして、その集会での阪上順夫さんの講演を収録した、この小さな冊子を発行することにした。阪上さんは日本選挙学会の初代理事でもあり、前記の法案が国会で審議された際には反対の立場から国会で参考人として発言もしている、選挙制度研究の第一人者である。加えて各国の選挙制度を概観し、小選挙区制をめぐる昨年夏の参議院選挙以降の目立った動向をフォローし、さらにあるべき選挙制度についてもいくつかの試案を討論の素材として提供することにした。
 不思議なことに、さまざまな政治課題──改憲反対、核兵器反対、反原発、女性解放、教育など──ではそれぞれに全国規模の大きな組織が作られているが、小選挙区制廃止を目標に掲げた組織は、1990年代初めには「小選挙区制・政党法に反対する中央連絡会議」が組織されていたが、近年はどこにもないようである。
 どうしてそうなっていたのかを考えると、いろんなことがはっきりする。……はじめにより