ブックレット・ロゴスNo.9 『2014年 都知事選挙の教訓』
「ノーサイド」では失敗を繰り返すだけ 脱原発は文明の転換点
保守層の分解・分岐の意味は何か? 頑な左翼から柔軟な左派へ
第2920回日本図書館協会選定図書
2014年6月15日刊行
四六判 124頁 1100円+税
ISBN978-4-904350-31-7 C0031
表紙写真:井口義友「地吹雪」 |
2014年都知事選挙の教訓:目次
まえがき
脱原発候補の当選を! 細川護熙氏当選の意味 村岡 到
1 選挙の意義
2 今次都知事選挙の重大性
3 都知事選挙の構図
二〇一四年東京都知事選挙の教訓 村岡 到
はじめに 選挙の結果
1 千載一遇のチャンス到来 脱原発実現の好機
2 〈脱原発〉候補一本化の必要性と基準
3 共産党の決定的な誤り
4 細川候補の第一声の意味
5 希望のまち東京をつくる会の「選挙総括」について
都知事選挙での分岐の重要性 村岡 到
1 新左翼党派での分岐の様相
2 「ノーサイド」説の誤り
3 保守層の分解をどう捉えるか?
4 共産党の「自共対決」論の意味と陥穽
5 一一月福島県で〈脱原発知事〉を!
宇都宮健児氏への批判の重要性 村岡 到
澤藤統一郎氏排除問題の重要性 都知事選挙に付随したもう一つの問題 村岡 到
都知事選挙が明らかにしたこと 村岡 到
インタビュー 都知事選挙に関わって 河合弘之
脱原発の闘いは大きな潮流であることを示した 高見圭司
舛添得票率は、一九・五%にすぎない
マスコミの舛添のスキャンダル隠し
低投票率は「雪」のせいばかりではない
村上達也さん(脱原発をめざす首長会議世話人)の統一への思い
経産省前テント日誌 三上 治
「火事と喧嘩は江戸の華」という喩もあるじゃないか
細川でいいじゃないか!
都知事選の残した傷痕はあわ雪のように消える(?)
得票分析から分かること──都知事選挙全一九回の「経験知」
西川伸一
はじめに──袋だたきにあった私
1 今回の都知事選をライカー・モデルで分析する
2 都知事選にはだれが勝つのか──「経験知」をさぐる
むすび──「経験知」を踏まえた「勝利の方程式」とは
活憲アピール 1 都知事選にさいして、都政と日本の重大な岐路
革新統一の破壊者──一九八七年都知事選挙 村岡 到
1 社会党が俵さん不支持の理由
2 小田氏とその支持者の錯覚
3 革新統一への稲妻の努力
4 畑田氏に投票しよう!
コラム 生存権 立候補権 政党助成金 議員定数削減
あとがき
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まえがき
二〇一二年一二月に次点候補の四倍もの四三〇万票の得票によって都知事となった猪瀬直樹氏が、あろうことか選挙資金の調達のために五〇〇〇万円を医療法人徳洲会の徳田毅衆議院議員から「借金」したことが露見して、昨年一二月一九日に辞任表明の破目に陥り、二月九日に都知事選挙が行われることになった。東京都の有権者は一〇八〇万人、選挙のための費用は五〇億円!選挙期間は一七日間。ソチオリンピックと重なったこともあり、マスコミの報道は過剰ではなかったが、大きな政治日程ではあった。政治的な意味という点では、国政選挙が補選を除けば三年間はないと予測されるので、一二月六日に特定秘密保護法を国会で強行採決するなど急速に壊憲策動を強める安倍晋三政権への世論の評価を下す絶好の機会となった。加えて、元首相の細川護熙氏が「脱原発」をメインに掲げて、元首相の小泉純一郎氏とタッグを組んで立候補することになり、にわかにその行方が注目を集めることになった。結果は、投票率は四六%(投票総数は四八六万票)。自民党と公明党が推薦した舛添要一氏が二一一万票で当選した。
この重要な政治的出来事、主体的に関わった人の立場からは大きな闘争について、次点となった宇都宮健児候補の選挙母体である「希望のまち東京をつくる会」は長文の総括を三月一六日に発表したが、宇都宮候補を推薦・応援した政党や党派は明確な総括を明らかにしない。日本共産党は、選挙結果についての「声明」も出していないし、「赤旗」にはこの選挙に関する個人論文も一つも掲載していない。わずかに党の東京都委員会が開票直後にごく短い「声明」を発しただけである(「赤旗」には掲載されない)。雑誌『世界』が、都知事選挙に関わった弁護士の河合弘之氏と海渡雄一氏の「対談、都知事選挙をめぐって」を掲載したが、他にはどの雑誌も取り上げない。一九六〇年代なら、この種の問題を必ず取り上げた『朝日ジャーナル』や『現代の眼』などが広く読まれていたが、廃刊されて久しい。『週刊金曜日』が取り上げてもおかしくないと思うが、どの候補を支持するとも書けず、関連する投書がいくつか掲載されるだけである。提起されている問題の重要性に気づかないのか、なにかの躊躇が働いているのであろう。
人間は、どの分野でも経験に学んで明日への歩みを確かなものにする。だから、自らの闘い・経験を総括しないままに済ますことは、その経験のなかの失敗をまた繰り返すことになる。
すでに触れたように、細川候補の立候補によって、脱原発の争点でも、保守層の分岐にいかに対応するかの論点でも、極めて重要な課題に直面することになった。投票日翌日の「東京新聞」の社説では「細川護熙氏が名乗りを上げた瞬間の〔安倍政権の〕狼狽ぶり」と評したほどである。端的に言えば、同日の「東京新聞」が大きな見出しで明らかにしたように、脱原発の一九三万票(宇都宮票プラス細川票)と舛添候補の二一一万票の対比の意味をどのように発展的に捉えることができるのか、が問われている。類似の対立・抗争が今後も再来する可能性も大きい。
その意味で、今度の都知事選挙の総括はぜひとも為さねばならない重要な課題である。それなしには、無力感と疲労感を深めるだけである。そこで、このブックレットを編集することにした。
主要な論点は次の三つである。
1 脱原発の重大な意味を強調する。この課題は、文明の転換に繋がる。
2 保守層のなかで起きている分解と分岐をどのようなものとして捉えるか。
3 政治行動における自己中心主義をいかにして克服するのか。
収録した論文は、主要には編者である村岡到が選挙前後にリアルタイムで発表した論文である。
脱原発の訴訟で弁護士として活躍している河合弘之氏にはインタビューに答えていただいた。河合氏は、細川護熙氏を応援する勝手連共同代表として都知事選挙に積極的にかかわった。
高見圭司氏は、全国反戦青年委員会の指導者を経て「スペース21」の運営委員をしている。原発現地の人びととも深く交流していて、八二歳で国会前の金曜デモにもよく参加している。
三上治氏は、一九六〇年代の新左翼運動の中心党派だったブントのリーダーで、脱原発運動の最前線の一つである経産省前テントひろばの代表格である。三上氏は、脱原発を実現するためには何が必要なのかという立場から、細川候補を応援した。
気鋭の政治学者・西川伸一氏には、戦後一九回に及ぶ都知事選挙の得票分析から何が分かるのかを明らかにしていただいた。西川氏は『週刊金曜日』に「政治時評」を月に一度連載していて、都知事選挙についても発言し、同誌の投書欄で賛否の話題となった。細川候補の推薦人リストにも名を連ねている。
付録として、今年一月に創成された「活憲左派の共同行動をめざす会」が告示直後に発した「活憲アピール1」を収録した。もう一つ、四半世紀も前になるが一九八七年の都知事選挙にさいして、村岡が発表した論文「革新統一の破壊者」を採録した。労働運動のナショナルセンターであった総評に代わって、連合が登場する前の時期であるが、この時には、今は無き社会党の妨害によって「革新統一」が実現しなかった。ブックレット収録の村岡論文の立場と内実が、大局的立場を貫く点で一貫したものであることを示している。
このブックレットが、全国各地で脱原発を強く願い、日本社会の変革のために活動している人たちに一石を投じ、波紋が広がることを強く祈念する。
二〇一四年五月三日 憲法記念日に
村岡 到 |