ブックレット・ロゴス

ブックレット・ロゴスNo.5 『議員定数削減NO! ──民意圧殺と政治の劣化』
小選挙区制廃止をめざす連絡会:編

「一票の格差」是正を口実にした議員定数削減の危険性!
自由法曹団元団長 坂本修
ほか執筆

『議員定数削減NO! ──民意圧殺と政治の劣化』
小選挙区制廃止をめざす連絡会:編
2011年4月6日刊行
四六判 108頁 1000円+税
ISBN978-4-904350-19-5 C0036

目 次
はしがき
小選挙区制はこうしてなくそう   佐藤和之

第1部 政治を劣化させる小選挙区制と議員定数削減
日本の選挙制度は異常だ!    日隅一雄
 選択の幅はあるか
 選択の結果は反映しているか
 選択のための情報は?
 マスコミの問題性
 どうしたら良いのか
国会改革は比例削減でよいのか  坂本 修
 安倍改憲策動に勝った民衆
 改憲策動の新しい陣立て
 小選挙区制が歪めた民意
 なぜ比例定数削減か
 トロイの木馬を入れないために
 「新たな局面」についての追記

第2部 どのような選挙制度がよいか
立候補権確立を          村岡 到
民意を忠実に反映する選挙制度を! 紅林 進
中選挙区比例代表併用制を     太田光征
選挙制度はいかにあるべきか──試論および行動提起  原田伊三郎
女性議員を議会の半分に      田口房雄
望まれる選挙制度は何か(コメント)小林善亮

第3部 小選挙区制廃止をめざす連絡会の活動
小選挙区制廃止をめざす連絡会の歩み
『週刊金曜日』の意見広告
「望まれる選挙制度とは・討論会」への協賛メッセージ 北村 肇
あとがき             村岡到

 はしがき

 小選挙区制廃止をめざす連絡会のブックレット第二弾としてこの小冊子を編集する。
 選挙制度をめぐる情勢は動いている。昨年一二月二二日、西岡武夫参議院議長は国会内で各会派の代表者による、「選挙制度の改革に関する検討会」の初会合において、参議院の選挙制度について、都道府県単位の選挙区を廃止し、全国を九地区に分けて全議員を比例代表で選出するとした制度の改定案を提示した。さらに、三月一〇日に、西岡氏は次の検討会への提案として「大勢として削減すべきだという声が強いとすれば、定数削減を加えて準備したい」と表明した。
 国会情勢は、菅直人政権の右往左往によって、衆議院の解散すらうわさされるなかで、「選挙制度の改革」どころではないとも言えるが、「一票の格差」改善をテコにして議員定数削減が根づよく狙われている。けっして軽視してはならない。
 現在、チュニジアから始まりエジプト、リビアへと波及しているアラブ民衆革命も、選挙制度と決して無関係ではない。独裁体制は民意が反映しない形骸化した選挙制度によってカモフラージュされている。実質的には機能しない「民主主義」制度が、アラブ諸国の長期独裁政権を支えてきたのだ。
 この場を借りて、『週刊金曜日』の特集「民意を消す小選挙区制」に掲載された小文を再録しておきたい。

 小選挙区制はこうしてなくそう

 民主党政権が狙っている「衆院比例区定数八〇削減」は、民主主義の歪曲をさらに拡大する。小政党は消滅し、少数派の声は一段と圧殺される。仮に国会議員に関する経費の削減が必要であれば、議員にかかる経費(秘書などもふくめ一人年間約七〇〇〇万円)を削減すればよい。なぜ、議員定数の削減と論理を飛躍させるのか。
 だが、小選挙区制廃止をめざす活動は、残念ながら不活発である。自由法曹団の一部が各地で声をあげた程度で、政党も労働組合も市民運動も無関心、あるいは軽視している。一九七三年には、公明党まで共闘し全国五〇万人のデモを展開して田中角栄の「小選挙区比例代表並立制」の提案を粉砕した、いまはその水準には到底届かない。
 小選挙区制廃止が明確な政治的要求として確立していないのは、「二大政党制」神話もさることながら、日本の左派や市民の運動のなかで、伝統的に選挙が民主主義の重要な基軸であり、民意表明の場であることについての認識が弱いからだろう。
 たとえば、〈立候補権〉は権利として、なお不在である。普通には、「被選挙権」と表現されている。だから、国政選挙では比例区六〇〇万円、選挙区三〇〇万円などという法外な供託金を許している(イギリスは九万円!)。そして、この現実を大きな問題として捉える感覚自体が、市民のあいだで欠如している。
 個別訪問を禁止したり、政党とその他政治団体を大きく差別したりする公職選挙法自体が、問題ありとして批判され改善されなくてはならない。また、政党助成金も大問題である。年間三二〇億円もが支出されている。しかも、受け取りを拒否している共産党に配分されるべき分は他の政党に追加配分されている。
 今回の議員定数削減、小選挙区制強化を跳ね返す道は、被害を受ける小政党の共闘を実現すること、政党や労組を反対運動に立ち上がるよう働きかけること、そして市民が独自に自分の身の回りで反対の声をあげ結集すること以外にない。小政党にとっては、比例区削減は命取りであり、反対せざるをえないはずだ。共同闘争の実現こそが、唯一の活路だろう。そうすれば、必ず跳ね返すことができる。
 小選挙区制廃止をめざす連絡会は、その橋渡し役を果たしたいと願っている。私たちは、本誌に「意見広告」を出したが(九月三日号)、現在その第二弾のためにカンパを呼びかけている。また、一一月七日には、「選挙制度改革について政党に聞く会」を企画している。幅広い参加を訴えたい。
 (『週刊金曜日』二〇一〇年一〇月一日号、特集「民意を消す小選挙区制」)
 ここでも確認したように「共同闘争の実現こそが、唯一の活路」である。そのために私たちも微力を尽くしたい。
                  小選挙区制廃止をめざす連絡会代表  佐藤和之

 二〇一一年三月一一日
    東日本大震災の日に