ブックレット・ロゴスNo.4 『閉塞時代に挑む──生存権・憲法・社会主義』
村岡 到:著
嫌われてきた「社会主義」、資本主義がゆきついた『蟹工船』状況。
この閉塞を切り拓くにはマルクスのいう階級闘争ではなく社会変革が必要だ!
その指針を示す。
2008年10月7日刊行
四六判 111頁 1000円+税
ISBN978-4-904350-09-6 C0336
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目 次
はしがき
1〈約束〉はなぜ大切なのか
ルソーの「約束」
法律の意義を見落としたマルクス
ルソー『社会契約論』の難点
〈生存権〉による〈社会契約〉の基礎づけ
2〈支配構造〉と問題を立てる意味
支配からの卒業
法学的認識の到達点
「階級闘争」の時代は終わった
「支配」と「統治」──政治の二重性
〈支配構造〉分析の必要性
3〈生存権〉と〈生産関係の変革〉
はじめに
第1節 〈生存権〉の核心的な重要性
第2節 〈生存権〉を軽視したマルクスとマルクス主義
第3節 〈生存権〉の歴史
第4節 エンゲルスの「法学者社会主義」のひどさ
第5節 〈生存権〉と〈生産関係の変革〉との統合
4〈平等〉こそ社会主義正義論の核心
第1節 「平等」を重視した「初期社会主義」
第2節 マルクスは「自由」を基軸に
5 憲法はなぜ大切なのか
「国民には憲法を守る義務はない」のか
なぜ法律を守らなくてはいけないのか
私たちの憲法改正要求
6〈地方自治〉の重要性
憲法第九二条は何か
「地方自治」軽視の理由
憲法における〈地方自治〉
〈市民自治〉の意義
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はしがき
一〇年間連続、自殺が三万人を越えた。六月八日には秋葉原で七人が無差別殺傷された。劣悪な労働条件の非正規労働者が一六〇〇万人・賃労働者の三割に激増、高齢者はうば捨て山へ──これが「美しい国」の現実である。だから、戦前のプロレタリア文学の傑作、小林多喜二の『蟹工船』が読書離れの風潮のなかで二〇〇万部も売れるベストセラーになり、海外でも注目されニュースになっている。
政治の劣化も甚だしい。前記の空疎なレッテルを思いついた首相の醜い退場の後を受けた「背水の陣」首相もまた一年足らずで放り出し辞職。大勲位などと称される長老は、今の政治家は「テレビ映りばかり気にして政治が堕落している」と嘆いている。
この閉塞した状況をどのようにして突破するのか。ようやく下からの反撃が組織されつつある。それらの闘いが実を結ぶためには、現状への激しい怒りだけではなく、なぜ今日のような状況がもたらされているのかを多面的に深く把握しなくてはならない。世界の政治・経済の動向分析も必要だが、活動の主体の側の問題を切開することも不可欠だと、私は考える。一言でいえば、これまでの労働運動や市民運動の限界を明らかにしなければならない。そのもっとも大きな争点は、マルクスとマルクス主義の意義と限界を明確にすることである。『蟹工船』ブームと併行して、マルクスの名が復活しつつあるという。一九九一年のソ連邦崩壊の後に「社会主義の終焉」が流行用語になったことに比べれば、悪くはないだろうが、マルクスの限界と誤謬に触れることなく、マルクスを持ち上げてみても再び三度破産するだけであろう。歴史の失敗から学ばないものが確かな道を切り開くことはできない。
この小さな本に収録したのは、ソ連邦崩壊後に、社会主義論を新たに探究してきたいくつかの論文である。私は、一九六〇年の安保闘争に高校二年生で参加していらい、新左翼の労働者活動家となり、二つの党派を経て小さな政治グループも創り、社会主義をひと筋に求めてきた。その半世紀の到達点とも言える(あわせて昨年刊行した拙著『悔いなき生き方は可能だ』も参照してほしい)。
三分の一を占めることになった「3」(後出)は、一九九八年に執筆した。長く黙殺されていたアントン・メンガーの『労働全収益権史論』を神田の古本屋で八〇〇〇円も出して入手し、一読、衝撃を受け、いらい社会主義再考の出発点になった。翌年末に尾高朝雄の名著『法の窮極に在るもの』を知った。これまた、私を法学的考察へと導いてくれた。その一つの成果が「4」の平等論である。二年前に尾高の『自由論』を復刻した(ロゴス刊)ので、彼を師と仰ぐ法学者の小林直樹さんに、同書と拙論を送付したら、 「失礼ながらメ独学モでよくここまで勉強されたと感服しました。『生存権』については、私の処女論文として〔一九四九年に〕書いたなつかしい思い出があり〔『憲法の構成原理』に収録〕、感銘ひとしお深いものがあります」と返事をいただいた。高名な憲法学徒の処女作のテーマがメンガーであったことに驚き、この三者に通底するものを感じた。「5」の憲法論のなかで小林さんの前記の著作から学んだことが活かされているのはそのおかげである。
他の小さな論考は二年前に創刊した『もうひとつの世界へ』(ロゴス刊)に発表したものである。
1〈約束〉はなぜ大切なのか 新 稿 二〇〇八年八月
2〈支配構造〉と問題を立てる意味 『もうひとつの世界へ』第一七号=二〇〇八年一〇月
3〈生存権〉と〈生産関係の変革〉 『カオスとロゴス』第一一号=一九九八年六月 ☆
4〈平等〉こそ社会主義正義論の核心 『カオスとロゴス』第二一号=二〇〇二年四月 ☆
5 憲法はなぜ大切なのか 『もうひとつの世界へ』第八号=二〇〇七年四月
6〈地方自治〉の重要性 『もうひとつの世界へ』第一三号=二〇〇八年二月
(☆は、『生存権・平等・エコロジー』白順社、二〇〇三年に収録)
いつも言うように、この小冊子が「社会主義へ討論の文化を!」を切り開くきっかけになることをこそ心から祈念する。
二〇〇八年九月一日 |