ブックレット・ロゴス

村岡到編 大内秀明 岡田進 武田信照 村岡到
『社会主義像の新探究』ブックレット・ロゴスNo.15
従来の教条主義的思考を突破する問題提起!

社会主義像の新探究 ブックレット・ロゴス15
2019年9月15日刊行
四六判 106頁 900円+税
ISBN978-4-904350-63-8 C0031

社会主義像の新探究 目 次

まえがき

共産主義から共同体社会主義へ  
      ──脱マルクス『共産党宣言』  大内秀明

 1 唯物史観は作業仮設
 2 『共産党宣言』の一八八三年の序文
 3 所有論的アプローチの問題点
 4 所有論的アプローチの強調
 5 『経済学批判』から『資本論』への転換 
 6 「晩期マルクス」は共同体研究へ

ロシアにおける社会主義への再挑戦    岡田 進
はじめに
 1 ロシア経済の現状と市民の意識
 2 ソ連とは何だったか
 3 二一世紀社会主義の模索(A・ブズガーリンの所説に即して)
 おわりに

J・S・ミル社会主義論の諸側面  武田信照
 はじめに──ミルは社会主義者か?
 ミルの社会主義論
  A 協同組合社会主義
  B 進化社会主義
  C 市場社会主義
  D 停止状態社会主義
 おわりに──マルクスとの対照

宗教と社会主義との共振  村岡 到
 1 ソ連邦崩壊後の思索
 2 宗教を理解する端緒と経路
 3 「宗教は阿片」論について
  A 「宗教は阿片」論の弊害
  B 蔵原惟人や宮本顕治は宗教を深く理解
 4 「創共協定」について
 5 〈宗社共振〉が生み出す前途

あとがき
人名索引
著者紹介

 まえがき
 アメリカと中国との経済対立が激化し、日本と韓国の関係もかつてない対立・緊張関係となってきた。八月に開かれたG7(主要国首脳会議)は、 トランプ大統領による「自国ファースト」の台頭によって、一九七六年の創成いらい初めて「共同宣言」を発することが出来なかった。国際的にも資本主義はゼロ金利状態に露わなように深刻な事態に直面している。その情勢を背景に、アメリカでもイギリスでも「社会主義」への関心が起こりつつある。
 アメリカでは来年の大統領選挙を前に「アメリカ民主主義的社会主義者」(DSA)が急成長している。同党は、大統領候補に名乗り上げている、民主党の上院議員バーニー・サンダースとも連携し、党員約五万人。また、EU離脱問題で揺れるイギリスでも党員五五万人でヨーロッパ最大の社会主義政党に成長した労働党のジェレミー・コービン党首が「社会主義」を掲げている。
 残念ながら日本では、七月の参議院選挙でも社会主義が話題になることはなかった。日本共産党が「社会主義・共産主義社会」なる彼らだけの言葉をたまに口にすることがあり、二〇〇四年の綱領大改定について、「社会主義革命への転化の角度からの特徴づけをなくした」と強調した不破哲三氏が、この発言とは真逆に「資本主義と交替する次の社会」と言い出した程度である。
 日本の現状はきわめて危機的とすらいえる。総務省の二〇一八年の「労働力調査」では、役員を除く雇用者五五九六万人のうち、正規労働者三四七六万人、非正規労働者二一二〇万人で、非正規労働者が占める割合が三七・九%になった。貧富の格差が拡大し、七人に一人が貧困にあえぎ、貧困率は先進国ではワースト八位である。また、国境なき記者団が毎年発表している世界報道自由度ランキング(二〇一七年)では七二番目でG7では最下位。女性の国会議員比率では二〇一八年は一九三カ国中一六五位で、G20で最下位である。
 参院選の結果を受けて、安倍晋三政権に代わる政権が摸索されているが、そのためには、各党が政権構想を明らかにする必要があり、経済・外交・文化などでの政策が問われている。幸いなことに、八月下旬に共産党が他の野党に「政権構想」について論議しようと呼びかけた。さらにその不可欠の一環として、未来への展望についても明らかにしなくてはならない。この小さな本に論文を寄せた論者は、その展望を〈社会主義〉として考察・探究している。
 大内秀明「からへ」は、マルクスの研究を初期・中期・晩期と分けて検討し、「所有論的アプローチ」の限界をえぐり出し、晩期には「共同体社会主義」に到達していたと析出し、そこに初期の社会主義像とは異なる発展を見い出している。
 岡田進「ロシアにおける社会主義への再挑戦」は、ソ連邦崩壊後のロシアの経済の実態とロシア人がソ連邦をどのように評価しているのかを明らかにし、なお社会主義を掲げて探究するグループの理論的営為を紹介している。
 武田信照「ミル社会主義論の諸側面」は、マルクスに先立つJ・S・ミルを「社会主義者」として捉え、その社会主義論の多面性──協同組合重視、利潤分配制、経済発展の停止状態論など──を明らかにしてその先駆性を浮き彫りにする。
 村岡到「宗教と社会主義との共振」は、マルクスの片言「宗教は阿片だ」に呪縛されていた従来の左翼の限界を突破してタイトルの方向を明らかにする。日本共産党の宗教をめぐる動向も取り上げる。
 なお、限られた範囲ではあるが、これらの論考が〈社会主義像〉の新しい探究のきっかけとして活かされることを強く望みたい。
 二〇一九年九月二日 日本帝国敗戦の日に                  村岡到