今年二月に行われた東京都知事選挙の総括を村岡到、河合弘之、高見圭司、三上治、西川伸一の各氏が夫々執筆やインタビューで語っている。全員が細川選挙を応援した方である。私自身は細川勝手連として選挙戦を闘い、その中で西川氏同様、宇都宮支持者からの強烈なバッシングを受け続けた。選挙は終わったが、都知事選挙での市民運動の分裂は大きな後遺症を残し、活動が停滞している。
市民運動は常に緊急の課題を抱えている。次々に放たれる毒矢に向かって行かなければならないため、検証や反省を怠り、同じ過ちを繰り返してきた。そこで勝手連では特命チームを立ち上げ、当事者に取材し、時系列の年表を作成した。その結果はっきりしたが、一二月中旬には既に共産党は宇都宮健児さんに会い、立候補を要請していたのであり、市民が「宇都宮さんでは勝てない」「保守層からも支持が得られる候補でなければならない」と奔走していた時には既に政党主導の選挙準備が行われていたのであった(細川護煕勝手連公式ブログ:http://katterentokyo.seesaa.net/参照)。
勝手連の共同代表として細川選挙を主導した河合氏は、「脱原発ということを最大限に優先して、もっとも基礎となる安全を確保したうえでなければ、雇用も福祉も存立できない。そのメリハリをつけずに、平板に他の政策と脱原発を並べているのでは、脱原発を本気で考えているとは思えない」、「細川さんの立候補のおかげで心ある人がたくさんいて、脱原発派が支持を広げ、多くの票が集まったということは、今後、保革一体となった脱原発運動への道の第一歩を築けた」と語っている。
経産省テントひろばの三上氏は、「脱原発を運動とする運動団体は喧嘩に持ち込む力を欠いてきた。これらの諸条件の中で今、初めて喧嘩になる可能性がでてきたのだ」、「都知事選の課題にはいろいろあるなんて絶対に言い出してはいけない」、「この喧嘩の意味が分からないか、本当に喧嘩する気のないものだ」、さらに「僕は細川や小泉の脱原発の動きを批判する人たちを批判したい。なぜなら、これは今後の脱原発運動に大きな影響を与えるし、また亀裂を持ち込むことになると思えるからだ」と言いきっている。
スペース21の高見氏は、東海村前村長村上達也さんの言葉を引いて「細川氏への一本化」が必要だったと強調している。
編者でもある村岡氏は、「共産党の志位和夫委員長が一月一五日に一本化問題を聞かれて『都政を福祉と暮らし優先に転換する点や憲法、消費税問題などで政策が全て一致するとは思えない』と答えた!」、「選挙や市民運動は共産党の方針に従うべきだという古い体質が顔を出したのであろう」と批判し、「あらかじめ不利とわかっている戦闘を避けるために、『迂回、協調、妥協』ができないような革命的階級の政治家は、ものの用にはたたない」と、レーニンの言葉を西川氏のコラムから重引している。
さらに「宇都宮けんじニュース」第一四号(一月一八日)に「一本化で吠える!」という見出しで紹介された「涙ながらに『(細川氏に会って)どの程度の人間なのか確かめることもせず〔私に〕降りろとはふてい考えです』と、居酒屋の席ではなく、公式の選対会議で『吠え』た!」、「宇都宮選対には、この下品な暴言をとても恥ずかしくて公表できないと判断する能力も欠如している」と批判している。この「吠える」は映像としてもユーチューブで拡散され、三万件を超え選挙戦で細川勝手連攻撃に使われたことを明記しておきたい。
村岡氏は、細川候補の第一声から「成長がすべてを解決するという傲慢な資本主義から幸せは生まれないということを、我々はもっと謙虚に学ぶべきだと思います」を引用して、「哲学の表明とすら言える」と感嘆する。
明治大学教授の西川氏は、都知事選全一九回の詳細な得票分析を行い、「勝利の方程式」として、1、絶対に外せないのが、舛添知事の任期中の辞任。2、「風」を起こせる知名度のある、質の高い統一候補の擁立。3、投票日は外出にふさわしい温和な気候に恵まれること。4、二〇一七年の都議選で自公を過半数割れに追い込む。としている。また栗本真一郎の言葉を引用し「『世界の大政党のうち、自民党は党員や支持者の過去をもっとも問わない政党である』(中略)この『過去』を問わない『ゆとり』を『われわれ』は見習うべきではないか」としている。この西川氏の分析は保存しておきたい。
細川さん、小泉さんは銀座に集まった二万人を超える聴衆を前に何度も「原発を推進してきたこと」を謝罪した。その光景は町田駅や立川駅などほとんどの街宣で見られた。評論だけでは勝てないし、この選挙に直接関わった人びと、特に革新だけでは勝てない、安倍の暴走を止めなければ戦争に加担する国になってしまう。
本書には二つの難点がある。一つは刊行日との関係か、細川勝手連としての総括文(五月三一日ブログ掲載)が検討されていないこと、もう一つは「いのち」を守りたいと闘った女性の声が一つも入っていないことである。
木村 結(原発ゼロを実現する会・東京事務局長)
探理夢到 4号=2014年7月1日に掲載
『2014年 都知事選挙の教訓』ブックレットロゴスNo.9へ |