ロゴスの本

悔いなき生き方は可能だ──社会主義がめざすもの  村岡 到 ロゴス

リストラやワーキングプアの現実で「労働者」を意識した人びとに、その根底にあるものを示す。
誇りを胸に生きる道はどこに? いっしょに考えよう!

悔いなき生き方は可能だ──社会主義がめざすもの 村岡到
2007年4月6日刊行
四六判 191頁 2000円+税
ISBN978-4-7807-0281-1 C0036

悔いなき生き方は可能だ──社会主義がめざすもの:目次

序 悔いのない生き方を

Ⅰ 社会主義の内実                 
 愛と社会主義──マルクスとフロムを超えて     
 1 〈愛〉の大切さ 
 2 〈愛〉は「交換」できるのか
 3 〈愛ある労働〉
 4 資本制社会では〈愛〉は例外か
 5 梅本克己の主体性論
 6 〈愛〉と社会主義との調和
〈付〉 行ないと知恵──タルムードの世界に学ぶ

 宗教と社会主義──ロシア革命での経験 
 1 「けんしん主義」?
 2 ルナチャルスキーと宗教
 3 問題の今日性

 農業と社会主義
 1 自然と農業の決定的重要性
 2 マルクスの「自然」理解
 3 〈農業〉を定礎できなかったマルクス
 4 農業は保護すべき産業
 
Ⅱ 社会主義社会への接近
              
 社会主義と法──ロシア革命が直面した予期せぬ課題 
 はじめに
 1 未開拓分野としての「法学」
 2 遅れたロシアの「法文化」と法律をめぐる変遷
  A 革命直後に直面した課題
  B 「スターリン憲法」での転換とペレストロイカの挫折
  C パシュカーニスの悲劇  
 3 歴史の教訓と新しい課題
  A 清算主義ではなく歴史に学ぶ立場を
  B 「人権」と「主権」を定位できなかったマルクス主義法学

 則法革命こそ活路──民主政における革命の形態  
 1 従来の「革命」のイメージ
 2 〈社会主義革命〉は何を変革するのか?
  A 経済の次元:〈生産手段の社会化〉
  B 政治の次元:「政治権力を獲得する」?
  C 杉原泰雄の「人民主権」論
  D 小 括
 3 〈則法革命〉となぜ表現するのか   
  A 社会と法(律) 
  B 近代市民革命の歴史的意義
  C 「資本制憲法」の歴史的限界とA・メンガーの批判
  D 〈則法革命〉こそ活路
  E 反動勢力の暴力行使への対応
 4 〈暴力革命〉はなぜ不適切なのか   
 結  び

 多数尊重制と複数前衛党 
 1 左翼運動では「民主集中制」が通説
 2 多数尊重制
 3 複数前衛党
 4 世界社会フォーラムの組織論

Ⅲ 当面の政治課題
 憲法はなぜ大切か
 1 「国民には憲法を守る義務はない」のか
 2 なぜ法や法律は守らなくてはいけないのか
 3 私たちの憲法改正要求 
 愛郷心を育てよう 
 自衛隊を解体し国連指揮下の日本平和隊の創設を
 漁民と魚に国境はいらない──竹島の日韓共同管理を
  高島義一氏の極左的空論 

解説に代えて 革命家の「寅さん」へのオマージュ  西川伸一                       
あとがき

Ⅰ 社会主義の内実
 愛、宗教、農業を取り上げ、それらがきわめて大切であると明らかにする。それらはこれまでマルクスやマルクス主義では軽視され弱点であった。「疎外された労働」の対極には〈愛ある労働〉が据えられるべきことを提起し、ロシア革命での宗教問題を解き、自然と農業の根源性に踏まえて、農業を〈保護産業〉とすべきだと主張する。

Ⅱ 社会主義社会への接近
 社会主義社会にはどのようにして到達するのか、その道筋を、法律の視点から反省し、〈則法革命〉を提起する。ロシア革命では法学が欠如していたがゆえに苦しんだ。民主政の歴史的意義を捉え直し、法に則った革命こそ現実的であると解明。組織論についても、多数尊重制と複数前衛を提起。世界社会フォーラムの運営にも通底する

Ⅲ 当面の政治課題
 憲法、愛郷心、自衛隊、領土について、原理的かつ現実的なオルタナティブを提起する。憲法はなぜ大切なのか、「愛国心」への反発だけでよいのか。自衛隊を国連の平和隊に改組すること、領土問題では竹島の日韓共同管理を提案。民主党の小沢一郎代表や「朝日新聞」の若宮啓文論説主幹もこれらの提案と同様の見解を発表している。

漁民と魚に国境はいらない 竹島の日韓共同管理を
 初出:「稲妻」第281号、1996年3月

 国連海洋法条約(一九九四年一二月に発効)の国会批准が迫り、竹島の領有権問題が浮上して、日韓両国関係が緊張する兆しがみえてきた。韓国では「独島」と呼ばれるこの日比谷公園ほどの小さな島をめぐる紛争の歴史は周知のことである。日韓両国が一定の根拠をもってその領有権を主張してきた。もし、両国が自国の「国益」なるものだけを譲ることなく主張し、エスカレートすると、両国の漁民の紛争が頻発し、敵対感情が高じて最悪の場合は日韓の対立がさらに激化する。旧ユーゴスラビァの民族紛争を例に引くまでもなく、このような事態は避けなければならない。
 私は、この島を日韓両国が共同で領有し管理する特別地域にすることが根本的な解決の道だと考える。二〇〇カイリの「排他的経済水域」の線引きについてはこの島の真ん中に引けばよい。また、島の名前は日本では、「竹独島」、韓国では「独竹島」とでも新たに命名すればよい。もっとも肝心な点は、この島の周辺の沿岸漁民の生活とこの近海の漁業資源が安定的に持続的に確保されることである。両国の漁民の生活の安定と魚類のためには国境や国境をめぐる紛争は不必要なのである。協定を厳格に守る自主性が必要なのである。
 先日、テレビ朝日のニュースステーションで、キャスターの和田俊氏がほぼ同様な意見を述べていた(一九九六年二月二〇日)。私は、五年前にゴルバチョフ大統領が来日して、「北方領土」問題が大きく浮上した時に、その〈無主地〉化と日ソの共同管理を提起した。そこでも例にしたように、南極は公海がそうであるようにどこの国家のものでもない。この考え方こそが、二一世紀にむけてしだいに有効性を発揮する。この考え方は、人間は「大地の所有者ではない。大地の占有者である」というマルクスの思想の一つの核心でもある。この考え方は、国内の災害のさいにも活用できる。昨年の阪神大震災の直後には、青木保氏が「土地はレンタル感覚で」と提起し、私は『週刊金曜日』で「土地の自治体所有」を提起した(九五年四月七日号「論争」)。公園や学校のように「公有地」がそれなりに存在していたからこそ、避難場所や仮設住宅が不十分とはいえ確保されたのであり、学校や公園がすべて私有・私営だけだったとしたら、事態がさらに悪化したであろう。マイホームのための「国有地」の売却が進められているが、時代の必要に逆行する愚行であることを強調しておきたい。

〈『悔いなき生き方は可能だ 社会主義がめざすもの』収録時の追記〉
 『週刊金曜日』に同趣旨の投書を投稿して掲載され、その後、三人が反論、さらに「再論」することになった。一九九六年三月一五日から五月一七日。
 「朝日新聞」論説主幹の若宮啓文氏は、「竹島と独島 これを『友情島』にノの夢想」で、本稿と同趣旨の主張を書いた(二〇〇五年三月二七日)。さらに、若宮氏によると、韓国の朴裕河・世宗大学教授も、「共同管理」を提起しているそうである(「朝日新聞」二〇〇六年一二月二五日)。
 ロシアと中国の首脳は二〇〇四年一〇月に、ほぼ半分に分け合う方式によって、アバガイド島などの国境問題の最終決着を宣言した。なお、「北方領土」問題については、一九九一年に書いた「クリル諸島は呼びかける」(『社会主義へのオルタナティブ』ロゴス社、一九九七年、所収)を参照してほしい。