ロゴスの本

不破哲三と日本共産党──共産党の限界を突破するために  村岡 到

躍進する共産党への内在的批判

不破哲三と日本共産党──共産党の限界を突破するために 村岡到 ロゴス
2015年11月25日刊行
四六判 238頁 2000円+税
ISBN978-4-904350-39-3 C0031

目 次

まえがき
第Ⅰ章 日本共産党の現状と存在理由
     ──平和と民主政を志向する日本民衆の結晶
第Ⅱ章 共産党を捉える私の立場と歩み
第Ⅲ章 日本政治の四つの主要問題と日本共産党
 Q1 自衛隊をどのように捉えていますか?
 Q2 憲法をどのように捉えていますか?
 Q3 天皇をどのように捉えていますか?
 Q4 原発をどのように捉えていますか? 
第Ⅳ章 不破哲三氏の歩み
第Ⅴ章 不破理論とは何か
 1 不破理論を検討する前提
 2 「社会主義革命」か「社会主義的変革」か?
 3 組織論をなぜ語らなくなったのか
 4 未来社会論のあいまいさ
 5 「社会主義生成期」論とソ連邦評価の動揺・誤り
 6 不破理論の特徴と限界
第Ⅵ章 日本共産党の歴史
第Ⅶ章 日本共産党を改善する方途
 〈補論〉 参議院選挙で柔軟な新戦術を
あとがき

詳しい目次

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 まえがき

 私は、一九七八年に当時在籍していた第四インターの機関紙「世界革命」で、〈日本共産党への内在的批判〉と〈日本共産党との対話〉を提起しました。それいらい一貫してこの課題を追求しています。
 最初に、私と共産党との関係について明らかにします。
 私は、一九八四年に「赤旗」で「反共主義」と非難されたことがありました(三月三〇日)。その頃は何回か「赤旗」で取り上げられました。近年は「赤旗」ではまったく取り上げられなくなりましたが、党内では次のような評価が流布されているようです。「『中核派』『第四インター』の元メンバーで、現在はその正体を巧妙に隠して日本共産党や民主的運動のかく乱策動を続けている村岡到氏」とされました。いつ、どこでかというと、二〇〇九年に、日本共産党東京都委員会が発行している「東京党報」なる党員向けの通信においてです。その「No.4 2009.12.23」です。本書の第Ⅰ章の初めで、共産党が戦争法案をめぐって国会で暴いた機密文書について、積極的に評価して紹介しますが、この文書は共産党を信頼する人が共産党に渡したに違いありません。同じように、この「東京党報」は、私が窃盗したものでも拾ったものでもなく、或る共産党員の友人が私に、「こんな風に言われているよ」と、くれたのです。二〇〇七年と一一年の東京都知事選挙をめぐる動向を解説したもので、そこに「村岡到氏」が登場しました。「村岡氏は各種の雑多な『市民運動』との関係を広げつつ、とくに日本共産党を支持する学者らにねらいを定めて、集会への出席や雑誌への執筆を働きかけるなどのやり方で、策動への引き込みを、現在も行っています」とも書かれています。
 私は、自分が中核派や第四インターに在籍していたことを隠したことはなく、むしろ明確にしています。ですから「正体を巧妙に隠」す必要はいささかもありません。
 先日、こんなことがありました。友人というよりは知人だった、或る年配の共産党員が亡くなって、その偲ぶ会を企画することになり、準備会の案内状が届いたので、出席しました。二〇人余の小さな集まりでしたが、私を除く他の人はほとんど年配の党員でした。全員の自己紹介の時に、私は二月に刊行した『日本共産党をどう理解したら良いか』を手に一言はなし、テーブルにその本を広げておいたら、隣の人がそれを買ってくれました。さらに彼は手帳を開き、紙片を取り出しました。そこにこの本の表紙が印刷されていたのでビックリしました。何と、『週刊金曜日』に掲載されたこの本の紹介記事(五月二九日号、西川伸一氏執筆)の切り抜きだったのです。彼は年配で東京のどこかの地区の役員をしていた方でした。共産党の党員が私の本の書評の切り抜きを手帳に挟み、その人の隣に私が着席したのです。こういう偶然を、私はごく稀にですが体験します。
 あるいは、私は半年くらい前からフェースブックを少し本腰を入れて始めたのですが、八〇〇人を超える「友達」の中に、共産党の地方議会の議員がけっこう多数いるようです。彼らは恐らく「赤旗」の情報だけでは満たされないものを感じていて、私がたまにアップする情報を知ろうとしているのでしょう。「いいね」と応答してくる人もいます。
 逆の事例もあります。私は今年七月に「赤旗」の古い号を見たくて代々木の共産党本部を訪ねました。受付の人に本名を伝えると、資料室の係りを呼んでくれて、コピーを購入しました。「正体」を隠すのは失礼なので、「村岡到と言います」とも伝えましたが、普通の対応でした。親切で開かれた対応だなと思い、二度目も同じように資料をコピーしてもらいました。「村岡到」と名乗って、『日本共産党をどう理解したら良いか』を進呈しました。ケイタイの番号も記しました。その二週間くらい後に、「日本共産党の資料室の責任者」を名乗るS氏からケイタイに電話があり、「党を誹謗・中傷する人には資料を提供出来ないから今後は来ないでほしい」と通告されました。ケンカしても始まらないので「そうですか」と応えました。前記の「東京党報」の延長線上でしょう。仕方ありません。これが共産党の現状なのです。しかし、S氏は、「あなたが求めている資料は国会図書館か東京都の図書館に行けば手に入ります」とも教えてくれました。わずかな可能性は残されているのかもしれません。親切に対応してくれた党員が居たことのほうを憶えておきたいと思います。
 もう一つ、「まえがき」として断っておきたいことがあります。言葉へのこだわりです。「言語拘泥症」という否定的ニュアンスの言葉があるように、この弊害に陥ってはなりません。しかし、言葉にこだわることは大切でもあります。『新約聖書』に「初めに言葉があった」と記されているように、人間は言葉を発することによって意志を伝え合い、情感を深めます。とんでもない誤解の元になることもありますが、言葉は本来、共通の理解を深めるための手段です(このことについては、二〇〇五年に書いた『社会主義はなぜ大切か』で論述しました)。言葉の意味を慎重に探ることが、考えるということです。
 ラブレターを書く代わりにラインだかでやり取りすることが流行り、言葉の重さはいっそう摩滅しつつありますが、言葉の本質は変わりません。揚げ足取りに陥らないように気をつけながら、慎重に言葉を吟味することが大切だと、私は考えています。
 同時に、人間は、心に残る名曲を聴いて感涙し、美しい絵画に出会って心を和ませます。人間はとても奥深い存在なのだと思います。
 「まえがき」の最後に、本書の構成について説明します。七つの章からなっています。
 第Ⅰ章 日本共産党の現状と存在理由
 第Ⅱ章 共産党を捉える私の立場と歩み
 第Ⅲ章 日本政治の四つの主要問題と日本共産党
 この章では、自衛隊、憲法、象徴天皇制、原発の四つの主要問題を取りあげました。 
 第Ⅳ章 不破哲三氏の歩み
 第Ⅴ章 不破理論とは何か
 この章では、「社会主義革命」か「社会主義的変革」か、組織論、未来社会論、「社会主義生成期」論とソ連邦評価の動揺・誤りを取りあげ、不破理論の特徴と限界を明らかにしました。 
 第Ⅵ章 日本共産党の歴史
 この章では、戦前の二三年間、六一年綱領の確定、ソ連邦共産党や中国共産党との熾烈な闘争の経過とその意味を明らかにしました。
 第Ⅶ章 日本共産党を改善する方途
 この章では、どうしたら共産党を改善できるのかについていくつかの提言を示しました。さらに、
戦争法が制定された現下の政治情勢についての補論を加えました。
 巻末に、共産党の大会ごとの「党勢」、国政選挙での得票数などの表と村岡到主要著作の一覧表も付けました。
 是非とも検討していただき、批評・批判を寄せて下さい。

 不破哲三と日本共産党──共産党の限界を突破するために 目 次
まえがき
第Ⅰ章 日本共産党の現状と存在理由
     ──平和と民主政を志向する日本民衆の結晶

 共産党の現状──「大運動」の結果
 〈付〉 理論的能力の衰弱さらすハウツー本
    ──浜野忠夫『民主連合政府をめざして──党づくりの志と構え』
 1 広告から消えた宣伝文句
 2 「不破さん」の党?
 3 「民主集中制」が出てこない「組織論」
 4 共産党の党勢と党活動の実態
第Ⅱ章 共産党を捉える私の立場と歩み
 1 共産党を捉える私の立場
 2 私の歩み
第Ⅲ章 日本政治の四つの主要問題と日本共産党
 Q1 自衛隊をどのように捉えていますか?
  〈付〉 〝撤回〟された「安保条約凍結」論
  〈付〉 或る仮説
 Q2 憲法をどのように捉えていますか?
 Q3 天皇をどのように捉えていますか?
 Q4 原発をどのように捉えていますか? 
第Ⅳ章 不破哲三氏の歩み
 不破哲三氏の八五年
 幼年期 小説を書く小学生の軍国少年
 敗戦、共産党への入党、東大時代
 後町七加子さんと結婚
 鉄鋼労連書記時代
 ペンネーム「不破哲三」誕生、健筆ふるう
 党中央の専従として頭角を現す
 ベトナム、中国、北朝鮮を訪問
 衆議院選挙に立候補、当選
 宮本顕治議長に引導を渡す
 家庭生活の様子
  不破家の住居
  長女千加子さんについて
  山登りが趣味
  不破氏を支える妻七加子さん
 外国訪問と対談
第Ⅴ章 不破理論とは何か
 1 不破理論を検討する前提
 2 「社会主義革命」か「社会主義的変革」か?
 3 組織論をなぜ語らなくなったのか
 4 未来社会論のあいまいさ
  A 「青写真」は要らないのか必要なのか     
  B 「社会主義・共産主義」とは何か?    
  C マルクスは人類の「本史」と書いたのか
  D 「結合した労働」とは何か?
 5 「社会主義生成期」論とソ連邦評価の動揺・誤り
 6 不破理論の特徴と限界
第Ⅵ章 日本共産党の歴史
 1 戦前の二三年間──弾圧下で党を保持
 2 敗戦後の一〇年余
 3 六一年綱領の確定
 4 政策活動に踏み出す
 5 ソ連邦共産党、中国共産党との熾烈な闘争
 6 ソ連邦崩壊後に生き残った政党
 7 「五〇年分裂」と二つの「干渉」の歴史的背景
 8 「五〇年分裂」で問われた理論的問題
 9 二つの共産党による干渉をはねのけた闘いの意義と限界 
第Ⅶ章 日本共産党を改善する方途
 〈補論〉 参議院選挙で柔軟な新戦術を

      ──「九・一九志位提案」を活かす道
  「九・一九志位提案」の要点とその影響
  なぜ「国民連合政府」と呼称するのか
  「衆議院の解散・総選挙」が消えた「幹部会の決議」
  「自衛隊活用」へ大転換?
  参議院選挙で柔軟な新戦術を
  二〇一五年安保闘争の敗北と新しい芽
あとがき

村岡到主要著作      巻末
参照文献         巻末
日本共産党の党勢など   巻末
人名索引         巻末