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不破哲三と日本共産党──共産党の限界を突破するために 書評:佐藤和之

共産党への内在的批判と左派の活路を提示

 日本共産党は一九二二年に結成されて以来、幾多の弾圧に耐え、内部危機にも直面しながら、国会に三二人の議席を保持して活動している。最近では、「戦争法廃止の国民連合政府」実現のための野党選挙協力を訴えて、政局に一石を投じている。他方、一九八〇年代の労働戦線再編により、総評・社会党ブロックは崩壊。「反スターリン主義」を掲げた新左翼諸党派は、一九七〇年代に「内ゲバ」を繰り返し、今では見る影もない。

 本書の著者・村岡到は、かつて中核派と第四インターという新左翼党派に所属した活動家だが、一九七八年以来、日本共産党への「内在的批判」と「対話」を追求してきた。それは、共産党の「解体」「打倒」をめざしたものではなく、「批判的連帯」を求めたものである。著者は「複数前衛党」論を提起している。新旧左翼を含む社会運動全体を視野に入れて、社会変革を本気で考えた末に、獲得できた立場だろう。

 本書の論点は多いが、「第Ⅰ章 日本共産党の現状と存在理由──平和と民主政を志向する日本民衆の結晶」に続く、「第Ⅱ章 共産党を捉える私の立場と歩み」では、新左翼党派の活動家であった村岡到の個人史と、共産党との関係が明らかにされる。

 「第Ⅲ章 日本政治の四つの主要問題と日本共産党」では、自衛隊、憲法、象徴天皇制、そして原発をめぐる問題を論点に共産党が論じられる。まず、最近の「民主連合政府」の成立を前提としない「自衛隊活用」論に対し、救助活動など非軍事的な活動に限定すべきと主張。同時に、国連指揮下の日本平和隊の創設を、著者は提起する。次に憲法に関して、六一年綱領では軽視されていたが、二〇〇四年の綱領では新憲法施行が「主権在民を原則とする民主政治」への変化とされた。要するに、憲法認識と国家権力規定を変えたのだが、そうであるなら「階級国家」論も破棄すべきだと、著者は主張する。

 また象徴天皇制に関して、六一年綱領では「ブルジョア君主制の一種」としていたが、二〇〇四年綱領では上のように、「主権在民」と認識を変える。だが、天皇制の存廃問題を先送りにした点を、著者は批判する。また、現在の共産党は「原発ゼロ」というスローガンを掲げるが、以前は原発批判が甘かったことを著者は暴き出す。同時に、共産党による科学技術の捉え方とソ連邦についての評価の動揺と誤りを切開する。

 「第Ⅳ章 不破哲三氏の歩み」に続く、「第Ⅴ章 不破理論とは何か?」では、「社会主義革命」か「社会主義的変革」かという問題、組織論、未来社会論、そして「社会主義生成期」論とソ連邦評価の動揺・誤りが取り上げられ、不破理論の特徴と限界が明らかにされる。一例を上げれば、不破氏は従来の組織論である「民主集中制」を語れなくなった。これは時代の激変の中で、定着した「民主主義」以外の概念を使えなくなったからだと、著者は説明する。

 続けて、不破氏の理論研究活動の特徴が指摘され、不破氏は、日本資本主義の現実ではなく、共産党の「マルクス・レーニン主義」と対決し、「革命の議会的な道」の論証に腐心してきたことが解明される。不破氏は「マルクスへの回帰」という形で追求してきたが、著者はマルクスをも超克すべきだと主張する。

 「第Ⅵ章 日本共産党の歴史」では、戦前の二三年間、六一年綱領の確定、ソ連邦共産党や中国共産党との対立と抗争の経過と意味が解明される。「第Ⅶ章 日本共産党を改善する方途」では、共産党改善の提言と、戦争法制定後の政治情勢について論じる。提言は、<憲法改正案>の明示、党員と党友との二層組織化、理論的交流・論争の活発化など、具体的である。最後に著者は、共産党の「戦争法廃止の国民連合政府」構想の弱点を指摘し、旧来の闘いの限界と新たな運動の意義を確認し、次の参院選に積極的に関わることを訴える。

 著者は「革命」の基本問題を、「①その革命の対象は何か、②その革命の方法は何か、③革命後の社会をどう構想し建設するのか」と整理し、「五〇年分裂」で問われたのは①②の問題、すなわちアメリカの評価と「平和革命」の是非であったという。しかも、その問題は、今日でも問われ続けているという。評者はここに、本書全体の執筆動機を見る。

 ①に関し、日本を支配するのはアメリカ帝国主義と日本独占資本の勢力という、所謂「二つの敵」論は、六一年綱領でも踏襲されていた。だが、二〇〇四年の綱領大改訂では、階級支配の視点が消え、「日本の政治制度は主権在民を原則とする民主政治」と規定された。②に関しては、所謂「敵の出方」論および「人民的議会主義」をもって、武装闘争路線を封じた。だが今や、二つの言葉は死語となり、最近は『赤旗』では「立憲主義」や「法の支配」という言葉を使うが、綱領にはない。なぜなら、「階級国家」論を捨て切れないからだ。
 二つの新左翼党派を経て、共産党批判を媒介にしつつ、社会主義への「則法革命」論まで歩を進めている著者三七年間の歩みは、貴重でもあり、学ぶことが多い。

佐藤和之 (教育労働者)

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