ロゴスの本

民主制の下での社会主義的変革  紅林 進

近年話題の「ベーシックインカム」や
スペインのモンドラゴン協同組合の教訓を解明
選挙制度の民主的改善についても提案


2017年12月8日刊行
四六判並製 176頁 1600円+税
ISBN978-4-904350-46-1 C0031

目次


まえがき
第Ⅰ部
社会主義社会をどのように構想し実現するか
社会主義的変革の可能性と困難性
ベーシックインカムと資本主義、社会主義
〈生活カード制〉の意義と懸念
モンドラゴン協同組合の経験
岐路に立つモンドラゴン協同組合企業グループ
     ──ファゴール家電の倒産に直面して
マルクス主義と民族理論・民族政策
第Ⅱ部
民意を忠実に反映する選挙制度を!
     ──完全比例代表制と大・中選挙区比例代表併用制
上田哲の小選挙区制違憲裁判闘争
あとがき

 

 まえがき

 この「まえがき」執筆時点の二〇一七年は、ロシア革命一〇〇周年だが、そのロシア革命が築いたソ連も一九九一年に崩壊し、「社会主義」に対する人々の期待は失われ、今日、「社会主義」に言及されること自体が極端に減ってしまった。ロシア革命一〇〇周年の催しも日本を含めて、本場ロシアでも、数えるほどしか行われなかった。
 しかし「社会主義」を過去のものとして、忘れ去ってよいのであろうか。資本主義の矛盾の中から人類が生み出し、解放の思想としてきたもの、ロシア革命とソ連をはじめ、人類が試行錯誤し、大きな犠牲も払いながら生み出してきた歴史を無視してよいわけがない。失敗を含めてその貴重な経験を未来社会の創造に活かすべきである。
 一方、米国をはじめとする資本主義は、ソ連が崩壊し、冷戦に勝利したとして、自らを制約するものがなくなり、資本本来の本性をむき出しにして、強欲な新自由主義政策をやりたい放題に進めている。一%が九九%を支配すると言われるような富の偏在、格差社会化も深刻である。
 私は、搾取や収奪を生み、格差や貧困を生み出し、利己心を刺激し続ける資本主義がよいとは思わないし、それを克服するには社会主義が必要だと考える。具体的には、生産手段の私的所有を廃して、社会的共有に移し、労働力の商品化を廃して、労働者が生産の主体、主人公になることであり、すべてを市場にゆだねるのではなく、人々の下からの協議の積み上げによる分権的協議的計画経済を築き上げてゆくことが必要と考える。資本主義の下では「民主主義は工場の門の前で立ち止まる」と言われるが、経済面での民主主義の徹底が社会主義だと私は考える。
 ところで今日では、ロシア革命の時代とは明らかに状況が違う。議会制民主主義の定着した社会にあっては、暴力革命ではなく、一人一票の投票によって、社会主義的変革への道を拓く可能性が生まれた。確かに九九%の人々、労働者、勤労者が団結すれば、一%の支配層を簡単に選挙で打ち破れそうであるが、現実にはそう簡単には行かない。まして旧ソ連の崩壊や朝鮮民主主義人民共和国などの現実により、「社会主義」に対して負のイメージの定着してしまった今日、「社会主義」に対して、人々を結集し、選挙によって「社会主義」に対して信認を勝ち得てゆくことは並大抵のことではない。しかしその道しかないし、それは可能だと私は信じる。
 本書では「民主制の下での社会主義的変革」がいかに可能であり、しかしさまざまな困難を伴うことを考察した論文を中心に、ベーシックインカムやモンドラゴン協同組合の経験、選挙制度の在り方などについて触れた諸論考を収録した。また私の属する社会主義理論学会の論集に載せた「マルクス主義と民族理論・民族政策」も収録した。
 本書が「民主制の下での社会主義的変革」に向けた議論の一助になれば幸いである。
 二〇一七年一一月                       紅林  進

   『民主制の下での社会主義的変革』 目次

まえがき

  第Ⅰ部 社会主義への理論的探究

社会主義社会をどのように構想し実現するか
 1 未来社会の構想について
 2 新たな社会主義経済像
 3 生産手段の社会的所有
 4 労働者協同組合、労働者自主管理企業、アソシエーション型社会
 5 分権的、協議的、下からの計画経済
 6 社会主義における分配原則
 7 社会主義の下での市場経済
 8 労働からの解放、労働の解放
 9 生産力の発展について
 10 社会主義の下における政治制度
 11 資本主義から社会主義への移行

社会主義的変革の可能性と困難性
 1 「ルールある資本主義」ではなく「社会主義」を
 2 市場と計画──下からの分権的協議経済的計画化
 3 社会主義的変革の可能性と困難性
  A 漸進的改革
  B 社会主義政党の役割1
  C 大企業・大資本の民主的・社会主義的統制
  D 非営利・協同セクターの形成・拡大

ベーシックインカムと資本主義、社会主義
 1 ベーシックインカムとは
  ベーシックインカム論が注目される背景
 2 ベーシックインカムの意義と限界
  BIの意義、利点
  BIの限界
 3 資本主義にとってのベーシックインカム
  労働力商品化を脅かす完全BI
  完全BIが実現すれば、資本主義は自動的に崩壊するか?
  新自由主義とも親和的な部分的BI
  労働の人間化や3K仕事などの改善にはプラス
 4 社会主義とベーシックインカム
  BIのみでは、搾取や格差自体をなくすことはできない
  形式的平等と実質的平等
  労働に応じた分配、必要に応じた分配
  BIと労働の在り方
 5 BI要求運動を資本主義変革のためにいかに活用するか
  生存権保障、社会保障拡充のための運動として
  労働力商品化廃絶につなげるための闘いとして

〈生活カード制〉の意義と懸念
 1〈生活カード制〉の意義
 2〈生活カード制〉の問題点、課題
 〔再録に当たっての補足〕

モンドラゴン協同組合の経験
 1 なぜモンドラゴン協同組合か
 2 モンドラゴンの歴史と実態
  スペイン内戦とアリスメンディアリエタ神父
  スペイン最大手の家電メーカー「ファゴール」
  労働者協同組合でもある「エロスキ生協」
  労働人民金庫8
  保育園から大学までの教育協同組合
 3 モンドラゴンをどう評価するか
  モンドラゴン基本原則
  左右からの批判
 4 岐路に立つモンドラゴン
  我々にとってのモンドラゴンの意味

岐路に立つモンドラゴン協同組合企業グループ
    ──ファゴール家電の倒産に直面して
 1 ファゴール家電の倒産の衝撃
 2 ファゴール家電協同組合の位置
 3 倒産の協同組合員と非正規労働者への対応の違い
 4 ファゴール家電の倒産の原因
 5 モンドラゴンや労働者協同組合を考える意味

マルクス主義と民族理論・民族政策
 1 「労働者は祖国を持たない」
 2 マルクス、エンゲルスの「歴史なき民族」論
 3 カウツキーの民族理論
 4 民族自決権を否定したローザ・ルクセンブルグ
 5 民族自決権を支持したレーニン
 6 ロシア赤軍によるポーランド進攻(一九二〇年)
 7 ユダヤ人ブントに対するレーニンの批判
 8 スターリンによる大ロシア主義的政策と「グルジア問題」
 9 レーニン「最後の闘争」
 10 トロツキーの「ヨーロッパ合衆国」構想
 11 オーストロ・マルクス主義の強調した「文化的自治」
 12 民族・植民地問題をめぐるレーニン・ロイ論争
 13 「台湾独立」に言及した時期もある毛沢東
 14 従属論・新従属論
 結びにかえて

  第Ⅱ部 民主的選挙制度を求めて

民意を忠実に反映する選挙制度を!
     ──完全比例代表制と大・中選挙区比例代表併用制
 議会制民主主義の基本である民意を忠実に反映する選挙制度
 民意をゆがめる小選挙区制
 民意を最も正確に反映する比例代表制
 地域と個人を重視した小選挙区比例代表併用制
 衆議院と参議院の望ましい選挙制度

上田哲の小選挙区制違憲裁判闘争
 小選挙区制違憲訴訟の東京高裁への提訴
 小選挙区比例代表並立制を「希代の悪法」とする論拠
 小選挙区制違憲訴訟・東京高裁判決の問題点
 最高裁判所での闘い
 小選挙区制の是非の判断を避けた最高裁
 国民投票法裁判
 むすび

あとがき