ロゴスの本

共産党、政党助成金を活かし飛躍を  村岡 到

市民と野党の共闘の先頭に立つ共産党は
日本市民の共同の橋頭保だ。
だが、共産党の綱領には「立憲主義」も
「個人の尊厳」も書かれていない。

『共産党、政党助成金を活かし飛躍を』村岡到
2018年7月15日刊行
四六判並製 184頁 1700円+税
ISBN978-4-904350-48−5 C0031

『共産党、政党助成金を活かし飛躍を』目次


まえがき
第1章 日本共産党躍進の活路はどこに
第2章 日本共産党の最近の動向
第3章 なぜ日本共産党にこだわるのか
第4章 日本共産党の党勢の実態
第5章 日本共産党の理論的混迷と後退
第6章 宮本顕治の凄さと時代的限界
付 章 〈左翼〉の猛省・再興を──〈友愛〉の定位が活路
コラム 「政教分離」ではなく、〈宗国分離〉を
コラム 新左翼とは何か
前著作の誤りの訂正
あとがき

 まえがき

 六月一二日、全世界の注目を集めて、シンガポール南部のセントーサ島の超高級ホテル「カペラ・シンガポール」で、ドナルド・トランプ=アメリカ合州国大統領と金正恩=朝鮮民主主義人民共和国国務委員長による米朝首脳会談が行われた。「朝鮮半島の非核化」が合意され、歴史的転換点になるだろう(この政局については、村岡到「米朝首脳会談成功の歴史的意義」。季刊『フラタニティ』第一一号:八月一日、の巻頭「政局論評」参照)。
 この小さな本のテーマは日本共産党にあり、国際情勢の分析は別の問題ではあるが、トランプ氏は翌日に「在韓米軍を早く撤退させたい」とまで繰り返した。「在韓米軍の撤退」は、直ちに「在日米軍の撤退」を話題に乗せ、「日米安保条約の廃棄」に繋がる。「日米安保条約の廃棄」は、共産党が一貫して掲げてきた政治目標である。残念ながら、米朝首脳会談の当日に発表された、志位和夫委員長の「談話」では、「日米安保条約」には触れていないが、少し後で、長文のインタビューでは「在日米軍、日米安保条約の存在が根本から問われる」と小見出しにした(「赤旗」六月二四日)。今後の日本の政局では「日米安保条約の廃棄」が最大の焦点・対決点となるだろう。
 現在、日本の政治は「安倍一強」の下で壊憲策動が強まり、野党の低落によって不安な情勢となっている。昨年二〇一七年一〇月の総選挙によって衆議院では、立憲民主党、共産党、社民党などを合わせても三分の一を割ってしまった。この混迷を打開しようと努力している市民にとって、共産党の活動と役割について正しく理解することは、不可欠の大切な要点だと、私は考えている。いたずらに共産党に反発する傾向もなお残存しているが、そのような反発と非難は自己慰安にすぎない。共産党は、現在の国会では衆議院で議席を二一から一二に減らしたために配分時間が減らされたが、森友疑惑や加計疑惑でも労働法制問題でも、壊憲策動を強める安倍晋三政権を鋭く批判し追及している。共産党は〈日本市民の共同の橋頭保〉である、と私は考える。この積極面を評価したうえで、共産党の限界や誤りについても厳しく問い、正すことが必要なのである。
 私は、一九七八年に〈日本共産党との対話・内在的批判〉を呼びかけて以来、一貫して共産党を批判的に支持してきた。今年で四〇年になるが、なお「日暮れて途遠し」である。この四〇年間、共産党も変わった部分があり、私自身も多少は成長したところもある。一つの節目でもあり、前記のように国際情勢との絡みからしても改めて共産党の動向について明らかにする必要がある。タイトルをいささか奇抜なものにしたが、単なる批判ではなく、積極的で具体的な提案こそが必要ではないかと考えたからである。
 本書の第1章から第5章は、前に発表した論文を部分的に活かしたところもあるが、基本的には新しく執筆した。
 「第1章 日本共産党躍進の活路はどこに」では、今年六月に開かれた第四回中央委員会総会で明らかになった「党勢」(共産党独自の用語で党員や機関紙「赤旗」の読者の数を示す)の現状を指摘した上で、政党助成金を活用して宣伝ビラの作成・配布したら国会議員を増やすことが出来るのではないかと新しく提案した。さらになぜ共産党に期待するのかについて説明した。
 「第2章 日本共産党の最近の動向」では、『週刊朝日』の志位和夫委員長インタビューや「入党の呼びかけ」や志位委員長の新春対談を取り上げ、五年前からネットで評判になっている「日本共産党カクサン部!」の裏表を明らかにした。
 「第3章 なぜ日本共産党にこだわるのか」では、共産党は九六年の歩みにおいて何を求めてきたのか、何と対決してきたのか、を探り、私の立場と共産党との関係を簡単に確認した。
 第4章では「日本共産党の党勢の実態」を明らかにした。
 「第5章 日本共産党の理論的混迷と後退」では、共産党は一〇年毎の節目に党史を刊行してきたのに、『日本共産党の九十年』がなお刊行されていない事実に注意を喚起し、自衛隊や象徴天皇制について語らなくなった、共産党の理論的混迷と後退を抉り出した。
 「第6章 宮本顕治の凄さと時代的限界」は、戦後の共産党を指導してきた宮本顕治の業績と限界について、二年前に書いたもの。今では宮本顕治の名前は共産党の中でさえ話題になることもないが、共産党がどのようにして敗戦後の日本社会で活動の活路を切り開いてきたのかを明らかにすることは、現在の共産党の動向を評価するうえでも欠かせない前提作業である。
 「付章 〈左翼〉の猛省・再興を──〈友愛〉の定位が活路」は、五年前に前年二〇一二年の衆議院選挙の結果に踏まえて書いたもので、〈友愛〉の定位を活路として明らかにした。共産党に批判的な期待を抱くことと合わせて、さらに大きく日本社会の未来の展望を明らかにするためである。社会主義を希求する、私の見解については別の拙著を手にしてほしいと希望する。
 「何を主張しているか」ではなく、「誰が話したのか」に傾斜して理解するいわば「属人思考」がはびこっている。誰でも迷路に陥った時には、老練な人物の助言に頼るほうが良い場合が多いに違いない。だが、それだけに頼っていると、未踏の領域で活路を切り開くことはできない。温故知新というように、バランスよく物事に対処していくことが求められている。
 その意味で、村岡到に初めて接する読者もいるだろうから、素性を明かすと、私は一九六〇年の安保闘争のデモに高校生ながら参加していらい新左翼の活動家として〈社会主義を志向〉してきた。
 唐突ではあるが、親鸞は法兄である聖覚から引いて「自分が遅れている場合には他人から学び、自分が進んでいる場合には他人を導き、ともに善き友となれ」と諭したという。〈社会主義を志向〉する求道の努力は、この姿勢と重ね合わされなければならない。
 人にはそれぞれの想いと歩みがある。共産党との関り、接点もさまざまであろう。この小さな本は、静かな湖面に投じられるのではなく、荒れた波に飲み込まれるだけかもしれない。聞き届けていただける耳もまた存在することを信じたい。
 本書が混迷を打開する一助になることを強く祈念する。ぜひ批判・助言を伝えていただきたい。
 二〇一八年七月七日                             村岡 到

   『共産党、政党助成金を活かし飛躍を』 目次

まえがき
第1章 日本共産党躍進の活路はどこに
 第1節 四中総が明らかにした共産党の現状
 第2節 政党助成金を活用して宣伝ビラの作成・配布を
  A 政党助成金の仕組み
  B 政党助成金への共産党の対応
 第3節 〈閣外協力〉の必要性
 第4節 機関紙「赤旗」の抜本的改革
 第5節 共産党の政治姿勢の根本的改善
 第6節 なぜ共産党に期待するのか──日本市民の共同の橋頭保
第2章 日本共産党の最近の動向
 第1節 『週刊朝日』の志位和夫委員長インタビュー
 第2節 「入党の呼びかけ」の検討
 第3節 志位和夫委員長の新春対談の誤り
      「人間の全面発達」か〈友愛〉か
 第4節 「カクサン部!」大活躍でも非公認
第3章 なぜ日本共産党にこだわるのか
 第1節 共産党は何を求めてきたのか
 第2節 共産党は何と対決してきたのか
 第3節 私の立場と共産党との関係
 付 節 共産党幹部とのわずかな接点
第4章 日本共産党の党勢の実態
 第1節 政党存続の困難性
 第2節 共産党の党勢の実態
第5章 日本共産党の理論的混迷と後退
 第1節 『日本共産党の九十年』はなぜ刊行されないのか
 第2節 廃語の数々と禁句
 第3節 〈自衛隊・天皇・大企業〉の容認へ
  A 自衛隊について   
  B 象徴天皇制について
  C 大企業について
 第4節 共産党の憲法認識のあいまいさ
  A 憲法第一五条の無視
  B 共産党は憲法をどう理解していたのか
 第5節 社会主義をめぐる迷妄
  A 呆れた暴論:不破哲三氏のローザ肯定
  B 「社会主義・共産主義の社会」とは?
第6章 宮本顕治の凄さと時代的限界
 はじめに
 第1節 「心情的社会主義者」芥川龍之介
 第2節 宮本顕治の「『敗北』の文学」
 第3節 宮本顕治の懐の深さ
 第4節 宮本顕治の時代的限界
 むすび
付 章 〈左翼〉の猛省・再興を──〈友愛〉の定位が活路
 はじめに──〈左翼の惨敗〉直視を
 第1節 〈左翼〉にこだわる意味
 第2節 〈左翼〉とは何だったのか?
 第3節 〈友愛〉の深い意義
 第4節 〈友愛〉の軽視・反発がもたらした弊害
 第5節 〈友愛〉志向勢力の弱点
 第6節 〈友愛〉の再定位の意義
コラム 「政教分離」ではなく、〈宗国分離〉を
コラム 新左翼とは何か
前著作の誤りの訂正
あとがき
人名索引      キーワード索引
村岡到主要著作
日本共産党の国政選挙得票  主要政党の比例区得票の推移