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社会主義って何だ、疑問と討論  紅林 進

〈社会主義〉をめぐって意義ある波紋  
昨年末に刊行した紅林進著『民主制の下での社会主義的変革』に対して、19人から書評やコメントが寄せられた。研究者、市民運動の担い手、日本共産党員、新左翼や旧ソ連派の活動家、アナキストなど異なる立場の人たちからの声である。「社会主義」が死語に近い思想状況のなかで、意義ある小さな波紋と言える。一層の波紋が起きるよう、紅林編集で本書を刊行!

社会主義って何だ、疑問と討論  紅林 進
2018年10月21日刊行
四六判並製 234頁 1800円+税
ISBN978-4-904350-50-8 C0031

目次

まえがき
第Ⅰ部 『民主制の下での社会主義的変革』への書評・コメント
ユーゴスラヴィア社会主義と紅林社会主義論   岩田昌征
デンマークに学ぶ必要性  宇都宮健児
歌人としての一言  大津留公彦
「階級独裁」概念の有効性と民主制の限界について  大西 広
共同体的世界の行方──モンドラゴン協同組合をめぐって  久保 隆
社会主義論のさらなる深化を  小泉雅英
資本主義の断末魔から社会をどう再生させるのか  斉藤日出治
社会主義とは何だったのか、に応える貴重な一冊  櫻井善行
運動の中から生まれた社会主義論  佐藤和之
変革と革命の関係を中心に  瀬戸 宏
社会変革の論議の一丁目一番地としての役割   武市 徹
韓国の市民運動との関係で   中瀬勝義
「民意を忠実に反映する選挙制度を!」に寄せて   西川伸一
旧来の社会主義論を超える  平岡 厚
ネットワーク時代の社会主義論を   平松民平
どんな運動を通じて社会主義へ進むか   丸山茂樹  
共有できる論点とさらに深化すべき論点   村岡 到
若い世代に合う社会主義論を   吉田健二
具体的な提言が変革への勇気を生み出す   吉田万三
『民主制の下での社会主義的変革』出版記念討論会の報告
第Ⅱ部 書評・コメントへのリプライ   紅林 進
岩田昌征氏へ  旧ユーゴスラビアの労働者自主管理社会主義
宇都宮健児氏へ 社会民主主義の成果と限界
大津留公彦氏へ 生産関係と分配問題について
大西広氏へ   独裁と支配は区別すべき
久保隆氏へ   企業の在り方について
小泉雅英氏へ  論証の不十分さについて
斉藤日出治氏へ 資本主義による社会の解体に抗して
櫻井善行氏へ  異なった立場や意見へのリスペクト
佐藤和之氏へ  BI、協同組合、民族理論・民族政策について
瀬戸宏氏へ   「社会主義的変革」と「革命」について
武市徹氏へ   社会主義像と実現方法について
中瀬勝義氏へ  ソウル市の改革に学ぶ
西川伸一氏へ  民主制のインフラとしての選挙制度の重要性
平岡厚氏へ   歴史的決定論と擬似科学について
平松民平氏へ  生産力基盤との接点を意識した社会改革
丸山茂樹氏へ  モンドラゴン協同組合について
村岡到氏へ   既成概念にとらわれない大胆な発想
吉田健二氏へ  分配の在り方について
吉田万三氏へ  賛辞に感謝
あとがき

 まえがき

 私は研究者ではありませんが、昨二〇一八年に初めて単著として『民主制の下での社会主義的変革』を出版しました。この拙著に対して、一九名もの方々から、心のこもった貴重な書評やコメントをいただき、望外の喜びでした。さらにそれらに対する私のリプライと合わせて、前著の続編として本書を出すことができて大変ありがたく思っています。書評やコメントを寄せていただいた皆様には感謝に耐えません。多くの的確な指摘も受け、自分の考えが及ばなかった点や、様々な新たな視点を教えられました。
 ところで、今年は、リーマンショックから十年であるとともに、マルクス生誕二〇〇年にも当たりますが、旧ソ連の社会主義が崩壊して以降、社会主義に対する人々の関心が失われ、二〇〇八年のリーマンショック直後は、多少、関心が戻るかのようにも見えたものの、取り分け日本においては、社会主義についての関心、そして研究や議論が、きわめて低調になっています。かつては、多くの若者の関心を惹きつけてきた社会主義に対する関心が、日本の若者の間で、著しく低下しています。
 旧ソ連の崩壊、リーマンショック以降の資本主義も危機と対立を深め、強欲むき出しの新自由主義や格差社会が一層深刻になる中でも、社会主義に対する関心や共感は、日本では残念ながら広がっていません。米国では、トランプのような大統領が誕生する一方で、近年、若い人の間に、社会主義に対する関心が広がっていると言われます。またヨーロッパでは、移民排斥などを主張する極右政党が伸びる一方で、イギリスでは、若い人たちに支えられて、社会主義的主張を掲げるジェレミー・コービンが労働党の党首になっています。スペインでもポデモス等の新しい左翼の台頭が若い人を中心に広がっていると言われます。お隣の韓国では、民主化したとはいえ、いまだに反共諸法や治安諸法が存在しているという制約もあり、直接的には、社会主義を掲げてはいないものの、朴槿恵(パク・クネ)政権を民衆の力で倒したロウソク市民革命や強力な労働運動、そして文在寅(ムン・ジェイン)政権の誕生、朴元淳(パク・ウォンスン)市長の下で進められているソウル市の画期的な諸改革の進展など、目を見張る改革が進んでいます。
 民主主義を無視する、戦争できる国づくりに邁進する安倍政権と対決し、それと闘い、倒すことが喫緊の課題です。同時に、資本主義の構造自体を捉え返し、問題にし、それに変わる運動(社会主義やオルタナティブな運動)を築きあげてゆくことも求められていると思います。
 本書が社会主義についての議論が活発化する一助になれば幸いです。
 二〇一八年九月二九日                紅林 進

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